情熱!農業人独立ストーリー 独立支援プログラム先輩たちの道のり6 第10期生・伊東寿樹物語「本物の本気を出して」

どうしても超せない選手がいた。本物の”本気”とは…

広大な畑でレタス栽培
草取り名人おじさん

どこまでもまっすぐに続く、広域道路。両サイドにはこんにゃく畑やレタス畑が広がり、視線を上げると、遠くの山並みが目に飛び込んできます。群馬県昭和村。今年1月に独立したばかりの伊藤寿樹さんは赤城山のこの広大な斜面で、日々レタス作りに励んでいます。昭和49年、青森県浪岡町生まれ。くしくも野菜くらぶ青森農場(黒石市)の隣町がふるさとだったことから、今年の秋には黒石市に移住し、来春、青森での栽培をスタートさせる予定です。

両親とも働きに出ていたという伊藤さんは、子どもの頃からリンゴ農家のお祖父さんの畑を手伝ったりもしました。さらに、「お祖父さんに連れて行ってもらった釣りにも、夢中になりましたね。何がおもしろいって、釣れない間、あれこれ魚のことを考えているのがおもしろかったんですよ!」。一方で中学時代に砲丸投げ、高校に進んでからはハンマー投げに熱中。ご覧の屈強な身体は、この時代に作られたものでしょう。この時期、今でもつらい時に思い起こすという、大切な経験をしています。 農薬を控えるので虫も少し 「すごくがんばっていたのですが、中高通して、どうしても超せない選手がいた。だから順位はいつも2位でした。でも今考えると、本気を出していると思っていましたが、本物の本気はもっと上のところにあったんです。自分で限度を決めていた気がします」。


「生活できないのは、努力が足りないから…」

彼女の一言がなかったら…
肥料撒きの道具です

高校卒業時、お祖父さんに農家を継ぎたいと願い出ましたが、リンゴ農家では生活できないと言われて、断念。北海道旭川市で、車の営業職に就きます。営業の仕事は「天職かと思うほど」(伊藤さん)性格に合い、毎日が楽しく、あっという間に10年が過ぎました。そうしたある日、訪れた農家のお客さんの言葉に、伊藤さんは胸を突かれます。「生活できないのは、努力が足りないからではないですか?」。伊藤さんの農業への想いが、再び燃え上がりました。

「やるなら、今しかない!」と帰郷したものの、現実はそう甘くはありませんでした。やはり農業は厳しく、理想と現実のはざまで揺れた2年が過ぎた頃、インターネットで農業法人が集まる「新農業人フェア」(※)という合同説明会があることを知ります。青森で知り合ったパートナーの前田華奈さんとともに、東京へ。ひととおり見終わって帰ろうと 共に働く仲間とともに した時、出口近くにあった野菜くらぶの席がひとつ空いていました。「せっかくだから、もうひとつ、聞いて帰ろう」。華奈さんのこのひと言が、伊藤さんを野菜くらぶに導くことになります。2008年1月、33才になっていました。


1日目で、「ヤバイ! 身体がついていかない」

頼りになる愛車! 
伸ばすと、こ~んなに

地元での仕事の整理をつけた半年後、伊藤さんは群馬の竹之内光昭さんの農場で研修を開始します。華奈さんもともに移り住み、竹之内信一さんの農場で働きます。しかし研修開始は、朝どりレタス最盛期の7月。「1日目で、ヤバイ、と思いましたね。身体がついていかない。体力にも力にも自身はあったのですが、そのレベルじゃないんですよ。早朝の収穫から夜までずっと動き続けるから、持続力が要求されるんです」。4ヶ月後、103㎏あった体重は83㎏になっていました。

研修中は、自分で考えるよう指導されたと言います。「仕事の指示はありますが、効率とスピードを重視していろいろイメージすることが大事だと。たとえば予報が午後から雨と変われば、作業手順を組み変えるなど、臨機応変に対応することを学びました」。そんな伊藤さんがもっとも感動を覚えたのは研修開始2ヶ月後の、初めてレタスを収穫させてもらった時だと言います。「それまで運んだり積んだりするのが精一杯で、レタスという意識がなかったのです 二人で力を合わせて 。それが初めて自分で切って収穫した時、『あ、レタス作ってたんだ!自分で植えたレタスなんだ!』って実感して。それからは積み方もていねいになりましたね。」


自分でやると時間が惜しい。昼寝もできない

畑での農作業のない冬場は選果場で働くなどして、レタス、サニーレタス、トウモロコシ、ハクサイなどの研修を終え、2011年1月独立を果たしました。今年は群馬の約6町歩の畑で、レタスやロメインレタス、カリフラワーなどを栽培しています。独立後は、「常にドキドキしてますね。天気相手なので収穫終了まで気が抜けません。肥料を撒いても雨で流されればまた撒かなければならないし、予定が毎日変わります。あきらめた時点で終わりですし、自分でやると時間も惜しい。研修中は昼休みに昼寝しましたが、今はできないですね」。食事やお弁当を作ってくれ、いっしょに農作業をしてくれるパートナーの存在は大きいと言います。

11月には青森の黒石市に移住し、冬の準備期間を経て、来春から青森での栽培を本格的にスタートさせる予定です。青森にはすでに3.5町歩ほどの畑を借りてありますが、開墾しなければならない土地もあり、購入した大型機械を、雪が降る前に何回か往復して運ぶつもりです。「来年が正念場です。借りた資金も大きいので、利益を出していかなければなりません。でも販売先を確保してくれている野菜くらぶは、ありがたいです。独立1年目でも、いい野菜を作れば生活できるんですから!」。緊張と不安、期待と自信、さまざまな感情が入り交じり、やさしい笑顔がキリッと引き締まりました。

※野菜くらぶも、毎回出展しています。興味がある方はふるってご参加して下さい!お待ちしております。新たな人生の出会いがありますよ。
http://www.nca.or.jp/Be-farmer/event/about.php

'09.7 米田玲子


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